Z34制作記「愛のむちむちVer.Ⅱ」-005 番外編/ターボとNA
34ターボを制作してから、多くの方から、同じ質問を受けます。それは、ターボとNA、どっちが速いですか? というものです。これは難しいですね…例えて言うなら、醤油ラーメンと塩ラーメンはどっちが美味いですか? と聞かれるようなものです。ぶっちゃけて結論を先に言ってしまうと、比べても無駄…ということですね。
ただ、幾つかの補足をしておきましょう。まず、この質問にある、“速さ”の定義です。簡単に、ターボのほうが速い、NAの方が速いと言い切ってしまう方もいますが…では、速さってなんですか? 幾つかの条件で絞ってみましょう。クルマの絶対的な動力性能で戦う競技…まずドラッグレースです。これはもう、ターボの絶対的な有利は揺るぎません。排気量増大装置として働くターボは、NAよりもはるかに大きなトルクを発生させることができます。そして、車両が加速していくというのは、ある一定の回転だけを使うのではなく、シフトアップのたびに回転が下がり、そこからの復帰のスピードが重要になるのですね。これはトルクが物を言います。ドラッグレースに関しては、まず間違いなくターボが速いです。もちろん、同じエンジンをベースにした時…という条件がつきますが。
では次に最高速を見てみましょう。これも…NAはターボには勝てませんね。特に、高回転側に振ったデカタービンの威力は凄まじいものがあります。
最後にサーキットで考えてみましょう。昔々、F1では、ターボの使用がOK だったのです。ただし…NAの半分の排気量なら…という縛りが付きましたが…当初はルノーのみだったターボですが、しだいにフェラーリ、ホンダなど、多くのメーカーが採用し、1000馬力を超える圧倒的なパワーでNAを駆逐してしまったのです。わずか1.5リッターの排気量で!! その後、どんどんターボに不利なレギュレーションが作られますが、それでもターボは強く、最終的には禁止されるまで、その猛烈な速さを誇示したわけです。
つまり…NAがターボより速いシチュエーションは、あまり存在しないといってもいいわけですね。もちろん、これはNAをバカにしたり、あるいはダメなチューニングと言っているのではありません。Lメカの官能的といってもいいサウンドとパワー。4バルブ2T-Gの、リアタイヤとスロットルが連動しているのではないかと思えるほどのレスポンス。13Bペリの、どこまでも、どこまでも…ありえないほどの高回転まで回るフィーリング。これらすべてを、久田は素晴らしいと思いますし、感動すら覚えます。
しかし…メカチューンはね…大変なんです…エンジンのすべての部分に手を入れて、パワーをかき集め、部品一つ一つを極限まで磨きこんでフリクションロスを低減させる。カムのセットに何日もかけ、ポートの形状に頭を悩ませる。この労力たるや半端なものではありません。その労力を金額換算し、お客様へ請求…恐ろしい金額になりますね。もし久田がリタイヤして、自分のガレージでコツコツと趣味の車を作り上げる。これならNAを選ぶと思います。楽しそうだしなぁ…でも、仕事として行うなら、どこかをはしょらなければなりません。エンジン1基に3~4百万の請求はできませんから。
もちろん、これはターボは適当な作業でいいと言っているのではありませんよ。ターボは、効果が出やすいと言っているだけです。作業の大変さはターボもNAも全く同じです。
また、壊れやすさに関してですが、NAの方が壊れない! と言い切っている人がいますが、本当ですか?? 馬力とは、トルク×エンジン回転数×Xです。と言うことは…トルクの小さいNAでターボと同等のパワーを出そうとすると、もしくは、同等ではないにせよ、馬力を向上させようとすると…必然的にエンジン回転数を上げて行かないと難しくなるのです。
ボズスピードにいらっしゃるお客様に、デモカーのブーストはCP時代は2キロを超えてましたよ…というと、皆さん驚かれます。壊れないのですか? と言われます。でもね、そのお客様本人が、「僕の4G63、あと1000回転回るように出来ませんか?」とおっしゃることも多いのです。今度は久田が驚く番です。驚きながら、ぶち壊れてもいいなら…と、小さな声で言うことが多いですね。コンロッドが折れる、クランクが折れる…普通に起きます。ブースト2.4キロよりも、8000回転のほうがよほど怖いのです。(まぁ、実際にはデモカーでは回していますが…お客様には絶対に薦めません)つまり、NAでパワーを出してゆくというのは、下手をするとターボより壊れやすくても不思議ではないということなのです。
ターボより、NAのほうが速いし壊れない、と言い切る方がいます…これはどんな根拠なんでしょう…ひどく悩みます。メカチューンでも何でもない、カムだけを入れたエンジンを持ってきて、ターボより遅いけど、壊れませんよ(当たり前だ)と、言いたいのでしょうか。ジムカーナコースのような、ターボが最も苦手なコースに持ってきて、ほら、ターボより速いじゃないか、と言いたいのでしょうか。くっだらねえ…
話を頭に戻します。ターボとNA。この2つは比べること自体がナンセンスなんです。それぞれにいいことがあり、弱点もあります。どっちが好き…これは普通のコメントです。「俺は醤油ラーメンが大好きなんだ!」こうおっしゃる方に、久田はウンウンと頷くでしょう。でもね「醤油ラーメンのほうがうまい!」これは頷けることではないんです。隣で塩ラーメン食ってる人もいるかもしれないんだぞ! 半端な知識で言い切ってんじゃねえ! あ、熱くなりすぎた…ごめんなさい。
ともあれ、同じエンジンです。味わいは異なれど、みんなで楽しくやりましょうよ。個人の好き嫌いと、物の善し悪しは全然別の問題ですよ。
と、いうことで…ターボとNAどっちが速いか? という質問は条件を限定してくだされば、お答えできるかもしれません。でも、きっと無意味です。それよりも、どっちはどんな味わいか…を楽しく語り合うことにしましょうね。